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福島地方裁判所 昭和52年(わ)65号 判決 1977年11月10日

主文

被告人を禁錮八月に処する。

この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和五一年一二月五日施行の衆議院議員総選挙に際し、福島県第一区から立候補した天野光晴の妻であり、同候補の選挙運動に従事していたものであるが、法定の除外事由がなく、かつ、出納責任者長島徳重の文書による承諾を得ないで、別紙一覧表記載のとおり、同年一一月一六日ころから同年一二月四日ころまでの間、前後一七回にわたり、福島市仲間町二番二七号あま乃旅館において、右候補の選挙運動者百川六郎に対し、同候補の選挙運動費用として現金合計約六六〇万円を交付し、もつて、選挙運動に関する支出をしたものである。

(証拠の標目)(省略)

なお、被告人及び弁護人らは、「被告人は、候補者天野光晴の代理又は伝達者の立場にあつて、出納責任者長島徳重の補助者として出納事務に従事していた百川六郎に対し現金を交付したものであるから、この交付は選挙運動に関する支出に該当せず、出納責任者の文書による承諾を要しないものである」旨主張するので判断するに、前掲各証拠によると、

(1)  長島徳重自身が不知の間に、同人を出納責任者とする旨の届出が昭和五一年一一月一五日付で福島県選挙管理委員会になされていたこと

(2)  百川六郎は選挙事務所での一切の費用支払いの会計事務を担当し、責任をもつて法定選挙運動費用を超過しないよう配慮したうえ、収支報告書作成時に出納責任者の了解をとりつければよいとのみ考え、長島に対し右事務担当のことなどを話したこともなかつたこと

(3)  被告人は天野光晴の命を受け、かつ百川六郎の人柄を信頼して現金を交付していたが、百川と出納責任者との関係については、意に介していなかつたこと

などの事情が認められ、これら諸般の事情を総合すると、百川六郎は本件の今次選挙の際、出納責任者長島徳重の補助者の立場で出納事務に従事していたものではないうえ、被告人においても、百川が長島の補助者であるとは考えていなかつたことが明らかであり、また、天野光晴の従前の選挙の際にも、百川六郎が実質的・全般的な責任をもつて出納事務に従事し、長島徳重は単なる名目上の出納責任者となつていたにすぎない関係にあつたと認められるので、被告人において、従前の選挙運動の実態から今次においても百川六郎を出納責任者長島徳重の補助者であると錯誤により認識するような状況にもなかつたことが明らかであり、被告人及び弁護人らの前記主張は前提事実を欠くものというほかないので、採用しない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は包括して公職選挙法二四六条四号、一八七条一項に該当するので、所定刑中禁錮刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を禁錮八月に処し、なお、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右の刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により、これを被告人に負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(別紙)

一覧表

<省略>

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